アルケンのヒドロシリル化用鉄・コバルト触媒の開発
<背景>
シリコーン化合物は優れた性質を持つケイ素材料として、電気・電子、輸送機、機械、化学、建築から、化粧品にいたる幅広い製品に利用されています。シリコーン工業の製品別用途は、シランカップリング剤が10%弱、シリコーン変性によるオイル、離型剤等の用途が20%弱、シリコーンポリマーの架橋によるシリコーンゴムの製造が残りの70%強と言われていますが、これらの多くの用途に白金触媒を用いるアルケンのヒドロシリル化反応が用いられています。
シリコーン化合物は優れた性質を持つケイ素材料として、電気・電子、輸送機、機械、化学、建築から、化粧品にいたる幅広い製品に利用されています。シリコーン工業の製品別用途は、シランカップリング剤が10%弱、シリコーン変性によるオイル、離型剤等の用途が20%弱、シリコーンポリマーの架橋によるシリコーンゴムの製造が残りの70%強と言われていますが、これらの多くの用途に白金触媒を用いるアルケンのヒドロシリル化反応が用いられています。
写真提供:信越化学工業(株)
世界のシリコーン産業全体で、2007年の1年間で~180,000 troy ounces (5,600 kg)の白金が使用されているとされており、その白金購入に必要な価格は、グラム4000円として算出すると、年間224億円となります(P. J. Chirik, Science 2012, 335, 567 − 570.)。また、使用された白金の回収はほとんど行われていません。(2017年1月現在グラムあたり、白金3920円、コバルト56円、鉄は純度や用途によりさまざまだが、一般に1円以下。)また、白金は貴金属で地殻存在量が少ない上、南アフリカ等の少数の国に偏在しており、労働争議や政情不安で白金の価格が上下し、時に供給不足になる事態が懸念されています。
このような背景から、白金を他の金属、とくに、安価な鉄やコバルトのような非貴金属で代替する触媒の開発が求められています。アルケンのヒドロシリル化のための鉄またはコバルト触媒の研究が、いくつかのグループにより精力的に行われ、とくに、P. J. Chirikらは、ビスイミノピリジン配位子を有する鉄錯体触媒が、3級シラン(アルコキシシラン、ヒドロシロキサンを含む)を用いて、アルケンのヒドロシリル化に極めて高い活性を有し、シリコーン硬化までも達成したことをScience誌に報告し、注目を浴びました(P. J. Chirik, Science 2012, 335, 567 − 570.)。しかし、Chirikらの鉄錯体は空気に極めて不安定であり、取り扱いにくく、実際に工業化への応用を考えると、難しい課題がありました。
<研究目標>
本研究は、JST-CREST「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」研究領域(研究総括:玉尾 皓平(理化学研究所 研究顧問・グローバル研究クラスタ長))における研究課題「有機合成用鉄触媒の高機能化」(研究代表者:永島 英夫 教授)による支援を受けました。私たちのチームは3社から企業アドバイザーの参加をお願いし、そのアドバイスのもとに、出口を意識した基礎研究を実施し、基礎研究とイノベーションを創出する研究の両立を目標として掲げました。
私たちは、具体的目標として、シリコーン工業で用いられているアルケンのヒドロシリル化反応の白金触媒を代替しうる卑金属触媒の開発、特に、企業の視点からの開発条件を加味し、ヒドロシロキサンを用いるヒドロシリル化に高活性(TON>最低1000)を示し、安定で使いやすい触媒の開発を目指しました。
<触媒開発へのアプローチ>
私たちは、鉄の電子状態を貴金属に類似した電子状態にする触媒設計研究を行ってきましたが、この研究を元に、適切な改良を加えることによって、入手容易で取り扱い、鉄あるいはコバルトのカルボン酸塩とイソシアニド配位子の混合物から成る触媒系が、ヒドロシロキサンを用いるアルケンのヒドロシリル化に高活性を示すことを見出しました。
<研究目標>
本研究は、JST-CREST「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」研究領域(研究総括:玉尾 皓平(理化学研究所 研究顧問・グローバル研究クラスタ長))における研究課題「有機合成用鉄触媒の高機能化」(研究代表者:永島 英夫 教授)による支援を受けました。私たちのチームは3社から企業アドバイザーの参加をお願いし、そのアドバイスのもとに、出口を意識した基礎研究を実施し、基礎研究とイノベーションを創出する研究の両立を目標として掲げました。
私たちは、具体的目標として、シリコーン工業で用いられているアルケンのヒドロシリル化反応の白金触媒を代替しうる卑金属触媒の開発、特に、企業の視点からの開発条件を加味し、ヒドロシロキサンを用いるヒドロシリル化に高活性(TON>最低1000)を示し、安定で使いやすい触媒の開発を目指しました。
<触媒開発へのアプローチ>
私たちは、鉄の電子状態を貴金属に類似した電子状態にする触媒設計研究を行ってきましたが、この研究を元に、適切な改良を加えることによって、入手容易で取り扱い、鉄あるいはコバルトのカルボン酸塩とイソシアニド配位子の混合物から成る触媒系が、ヒドロシロキサンを用いるアルケンのヒドロシリル化に高活性を示すことを見出しました。
<内容>
この反応における基質の適用範囲を下図に示しています。鉄触媒はスチレン誘導体に広く有効でありますが、鎖状アルケンに適用すると脱水素シリル化等の副反応が併発してしまいます。一方、コバルト触媒では、鎖状アルケンやα-メチルスチレン誘導体で良好な結果が得られ、スチレン誘導体では脱水素シリル化等の副反応が併発してしまいます。このような鉄とコバルトを相補的な特性により、広範なアルケン基質に適用できる触媒系が開発できました。また、グリシジルエーテル等、エーテル基質をもつアルケンにも適用可能であることを明らかとしました。
この反応における基質の適用範囲を下図に示しています。鉄触媒はスチレン誘導体に広く有効でありますが、鎖状アルケンに適用すると脱水素シリル化等の副反応が併発してしまいます。一方、コバルト触媒では、鎖状アルケンやα-メチルスチレン誘導体で良好な結果が得られ、スチレン誘導体では脱水素シリル化等の副反応が併発してしまいます。このような鉄とコバルトを相補的な特性により、広範なアルケン基質に適用できる触媒系が開発できました。また、グリシジルエーテル等、エーテル基質をもつアルケンにも適用可能であることを明らかとしました。
さらに、鉄触媒系は、最高活性としてTON(触媒回転数)9700を達成し(スチレンとPMDSとの反応)、コバルト触媒系では最高TON 1885を達成しました(α-メチルスチレンとPMDSとの反応)。
シリコーン変性の検討において、触媒の反応活性が低く、反応が完結しない、あるいは、副反応を生じることが問題となっていました。シリコーンに含まれるSi-H基の濃度が低いために、触媒活性種の発生過程であるカルボン酸金属塩とSi-Hとの反応が有効に起こっていないと考えられました。そこで、(EtO)3SiH等のアルコキシシランを助触媒として加え、カルボン酸金属塩を活性化することで、より低い温度で、かつ、良好な速度でヒドロシリル化が起こることが確認され、シリコーン変性が達成されました。
また、シリコーン硬化も、コバルト触媒系で達成できることを確認しています。
<産学連携>
本プロジェクトでは、信越化学工業株式会社からアドバイザーを招聘し、産学連携で研究戦略・特許戦略策定を行ってきました。また、この基礎研究成果を受けて、科学技術振興機構(JST)A-STEP(研究成果展開事業 研究成果最適化支援プログラム)シーズ顕在化タイプで本触媒の実用性の検証をおこないました。その結果、この新触媒系を用いる産業的シリコーン製造への可能性についての基盤的な成果が得られたため、信越化学と共同で実用化検討を実施しています。
<評価>
本成果は、米国化学会誌 (JACS) のcover, spotlight に選出され、学術的にも高い評価を得ました。さらに、同誌のSelect Research Articles from 2016にも選ばれました。
<波及効果>
本研究は、ベースメタルを用いるヒドロシリル化研究における日本発の優れた成果として世界を牽引し、今後更なる触媒改良で、真に白金を代替する触媒への可能性を秘めるものです。